エキサイトイズム エキサイト(シンプル版) | エキサイトイズム | サイトマップ
ドイツ5 Zollvereinの続き
ライター 渡部です。

「ドイツ5」と書き出しておきながら、
放置していたドイツの炭鉱跡地ツォルフェラインのお話。

b0141474_18443633.jpg


ドイツ、エッセンにあるツォルフェライン、と言っても分からない読者の方も多いと思うが、「ルール工業地帯」と言えば中学校の地理、歴史で勉強した覚えがあるのではないだろうか。産業革命を代表する地域の1つだ。
エッセンはその中の1つの都市で、ドイツの西部、デュッセルドルフから約35キロほど北上した場所にある。成田からだと、フランクフルト国際空港駅、そこからICE約2時間でエッセン駅、(ツォルフェライン炭鉱跡地へは、そこからトラムで10分くらい)というのが最短の行き方だろう。

ツォルフェライン炭鉱の始まりはは1847年に遡る。以後、1932年まで増築拡張を重ね、1986年まで炭鉱として稼働した。日本最大と言われた三井三池炭鉱とほぼ同じ(起源は三井三池のほうが古いが、近代設備として)。世界的に見ても炭鉱というものは19世紀半ばに始まり、80年代頃閉鎖というものらしいが、ツォルフェラインがユニークなのは、UNESCO世界遺産に登録されていることだ。

というと順番が逆で、その建造物の美しさと地域の人々の保存活動の秀逸さから、世界遺産の登録基準をクリアしている。100ヘクタール、という自分の足で歩いて1日掛かり、どこまで続くんだというくらい広い敷地に、85年掛けて増築された建造物が並ぶだけに、誰が設計した、と言いづらいのだが、

b0141474_18452118.jpg


現在ある建物の中でもメインとなっている「シャフト12」エリア(上の地図赤の部分)は、1932年Fritz SchuppとMartinKemmerの設計によるもの。
左右シンメントリーのシャフト(地下の石炭を上に上げるための立杭)がアイコン的存在としてそびえ立ち、

b0141474_18455095.jpg


周りを囲むように煉瓦と赤い鉄骨の箱状なるもの、格子状の直線、平面の壁面で構成された建築群が並ぶ。炭鉱跡地と前述したが、実際はこの敷地を利用した文化商業複合施設である。デザイン賞Red Dotのオフィスもこの敷地内にある

b0141474_18461767.jpg


建物内部は出来る限り、稼働時の機械類を残し、

b0141474_18463428.jpg


産業遺産保存の博物館としての機能を持つ他、美術館やレストラン、イベントスペース、オフィスなどに使われている。
こうしたリノベーションの活動は、閉鎖後すぐの1993年から草の根運動的に始まり、1999年から一部一般公開。2002年よりOMAによるリノベーションのマスタープランが実施され、今年2010年、シャフト12を中心とするOMAによる改修部分が完成した。
シャフト12を巡ってみると、入口のエスカレーター以外どこが改修されたの?と思うほど、あっさりとしている。

b0141474_18472250.jpg



それもそのはずで、OMAは昔のままを(洗い直し、新しい部材を足し)再現する以外極力何もない方法を取ったのである。ただ建造物を見るための道だけはしっかりと作ってある。かつての石炭運搬用空中廊下を見学者用の通路となり、朽ちている部分は保護しつつ、それでも最低限、足の踏み場を作っている。
これは文化遺産保護という意味も強いが、この建造物の存在感は圧倒的で余計な付け足しをすればその存在感が薄まってしまうからである。

b0141474_18483552.jpg


『隔離小屋』(ジム・クレイス著/渡辺佐智江訳、白水社刊)という小説を最近読んだ。
なんらかの理由で現代文明が崩壊し、人々の生活は家庭や村を単位とする、中世的な様式に逆戻りしてしまっているアメリカ、という設定だ。道路や工場跡、大量生産された布や靴の片鱗など過去の産物も残っているが、人々はなぜそれがあったのか、理解できない。
主人公の女性が工場群の跡に出くわすシーンがある。巨大な鉄の柱や筒や球を目にし、人間が作ったものだと考えることができない。人間以外の巨人か何かでしか作り得ないものとして受け止め、驚き、畏怖の念を抱く。

b0141474_18475670.jpg


現代社会に生きる人間としては、工場がなぜあるのか、どのように作られているのかは分かっているにしても、巨大な構築物を目の当たりにすると、人間のサイズ単位とは全く違うスケール感に圧倒される。
こと、それが本来の機能を失っている場合、物質としてのサイズをより強く感じる。

ツォルフェラインの面白さは、稼働中の工場でもなく、廃墟でもない、1つの均質性にとどまっていないことだろう。一部は見学者を迎える施設として整備され、荘厳な姿を見せ、一部はまだ手つかずの状態として、植物に浸食されながら朽ち(あるいは共存し)、

b0141474_1847496.jpg


そして(これは非常に重要な点だが)それらがすべて人々を迎え入れている、人々がそこで憩いの時間を過ごしている、ということである。

b0141474_18492688.jpg


歩き、コーナーを曲がるごとに異なる表情を見せる。私が行ったのは6月初旬の暑い日だったが、冬はまた違う様相となるのだろう。リノベーションはまだ進行中であるから、今もまだその表情は変化し続けている。
b0141474_18485810.jpg

[PR]
by dezagen | 2010-07-05 18:55 | イベント