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市川崑のタイポグラフィ 小谷充著
『市川崑のタイポグラフィ』
このタイトルを聞いただけでそそられる読者も多かろう。市川崑監督の映画、特に大ヒット作である『犬神家の一族』(1976年)他金田一耕助シリーズ、のあの、黒地に白文字(一部赤だった記憶)が、ずいっ、ずいっ、と出て来るタイトルシークエンスは忘れようにも忘れられない(佐清?のマスクを取るシーンが一番忘れられないといえば忘れられないが)。

市川崑に関しての本は数多く出ているが、タイポグラフィに焦点を合わせた本はこれが初めて。あくまで市川崑の映画に使われた文字を中心に解説しているが、同時に明朝体の歴史、印刷文字の変遷、書き文字と印刷文字の違い、文字レイアウトの効果、と、タイポグラフィーを学習する上で貴重な情報もたっぷりと盛り込んでいる。
加えて、『エヴァンゲリオン』や『ルパン三世』、TSUBAKIのTVCM、といった映像の中に市川崑のタイポグラフィの系譜を見いだす。

何よりすごいのは「本人や当事者の証言を鵜呑みにしないのは調査の鉄則だ」、と著者小谷充氏は、数多ある明朝体の中から、どのタイプが使われたか、なぜそうなったかを自ら検証していること。つまりこの本は小谷氏自身が探偵役を務める物語でもある。

話がそれるが、横溝正史の金田一耕助シリーズ含め探偵小説では、通常小谷探偵のように微に入り細に入り説明することはない。古典的なところで、アガサ・クリスティのエルキュール・ポアロなどは、大概はエンディングで、こうですね、とざっくり説明するのである。その灰色の脳細胞がどのように思考し、これしかない結果を導いたか、というロジックはほとんど書かれない。
なぜかというと、それをやると小説はがくん、とつまらなくなってしまうからである。異論もあろうが、ロナルド・ノックス、ヴァン・ダインなどはその例だと思う。探偵小説の十戒、二十戒(則)と、探偵小説はかくあるべし、というルールを(シャレ半分だとしても、一応守っていた)作った彼らの小説は、くどいほどに説明が入るので、先生に教えられているような気分になったりする。

『市川崑のタイポグラフィ』は小説ではないので、思う存分検証を理論を背景をすべてさらけ出していいのである。疑問と検証、疑問と検証、するすると謎が解けていく楽しさは、小説とはまた異なったエンターテイメントだ。
小さいところだが、「小道具の新聞作法」(p136)の項目は、今まで不思議に思っていた、テレビドラマや映画の中に登場する新聞の偽物っぽさと、市川崑作品の中の本物感の違いの謎が解け、すかっとする思いだった。

すでに文字好きの方々の中では話題の本となっている。私のように、デザインの業界に片足をつっこんでいながら、文字のことはとんと頭に入ってこない人間には、具体例を出してもらうのが一番分かりやすいので、そうした意味でも、タイポグラフィちょっと苦手、という人にもお奨めできる本だと思う。

『市川崑のタイポグラフィ』小谷充著 水曜社 の詳細はこちらで
http://www.bookdom.net/suiyosha/1400yomim/1448ichikawakon.html
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by dezagen | 2010-08-31 22:50 |