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『気分はサイボーグ』原克著 角川学芸出版刊
ライター 渡部です。

原克氏の本はどれを読んでも面白い。
1つのテーマで歴史を追いその変遷を見て行くというジャンルの本は数多あるけれど、専門用語を知らなくても、さっき出てきたばかりの名前をざっくり忘れてしまっても、とにかくガンガン読み進みたくなる。この手の物書きとしては、原克氏と海野弘氏が断トツだと私は思っている。

さて、その原克氏の最新刊、タイトルは『気分はサイボーグ』(角川学芸出版刊)。うっかり、小説や映画の中のサイボーグ変遷の本かな?と思っていたのだが、サイボーグ以前というか、機械人間のイメージを形成するまでに到る、19世紀終盤から20世紀初頭までの、身体と電気=高周波電流の関わりのお話であった。
本書では、電気が般生活に入り込んでいく中で、医療や美容にも効果があると謳う製品や科学者の、実際には根拠がほとんどないイカサマっぷりをたっぷりと見る、読むことができる。

とある電気ベルトの効能書きが引用されている
「リウマチも神経痛も、肝臓や腎臓の機能不全も、腰痛も便秘も、痔疾も麻痺も、血行不良も神経痛も、不眠症も小児麻痺も、無感覚症もチクチクした痛みも、眩暈も寝起きの疲労感も、消化不良も虚弱も、全身衰弱も発作も、便秘症も未消化も、脊髄の問題も活力減退も老衰も、要するに、動物電気が失われる症状はなんであれ完治する」
紫光線の発生機械では「体内に深く浸透して、全身を飽和させ」「細胞に直接働きかけ、組織全体を調整し活発にするのです」と言う。
前置きで「イカサマ」と言っているから、この文章は面白おかしいのだが、実際に腰痛や不眠症やさまざまな疾患に悩まされている状態でこれを読んだら、ちょっと試してみたい、と思うのではないだろうか。実際、根拠があるのであろう電気ベルトや紫光線機械は現代においても流通している。

原氏が注目するのは、その電気製品の進化よりむしろ「語り口」、つまり一般向け科学雑誌やその広告に書かれ、読者を導く力——原氏がロラン・バルトの言葉を借りて言うところの「科学神話」である。本書の読後に感じたのは、この「科学神話」は広告なりパッケージなりの「デザイン」とも言い換えが可能であるということ。

とあるパッケージデザイナーの人は、こう言っていた。
「たとえばこのビールはプリン体が少ない、と言っています。でもそれは目に見えないから、実物を見てそうですね、と納得できるものではないのです。それでもメーカーの言っていることを信じなければならない。パッケージの作り手としては、買う人がそれを信じられるようにしなければならない」

この「信じなければならない」「信じてもらわなければならない」デザイン言語はビールだけでなく、カロリー○%オフなり、燃費アップなり、繊維の奥までなり、なんでもいい。こう書いていくとまるで広告業界、デザイン業界がすべてイカサマみたいに聞こえるかもしれないが、むろんそういう意味では全くない。
ただ、広告やパッケージのデザインは、モノの神話を作る言葉の1つ1つであるのだなあ、と深く感じたこと。そしてこうやってウェブの媒体で文章を出している私のこの言葉も神話の一部に入っているのだ、ということ。そんなことに気がつかされる本だった。

『気分はサイボーグ』の詳細はこちら
http://www.kadokawagakugei.com/detail.php?p_cd=200910000147
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by dezagen | 2010-09-05 20:51 |