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香港のデザインスタジオ latitude
ライター渡部です。

 今年の10月に香港のセレクトショップkapokに寄った際、気になる器があった。小型の碗の内側に炊飯器やスクーターの線画イラストが入ったもの。店の人に聞くと香港をベースにするデザイナーの作品だという。6セットで480香港ドル(約5200円)と安くはなかったので迷った末に、結局買わなかったのだが、帰国してからも思い出し、買っておけば良かったと思い返していたところに12月に急遽香港に行くことになったので、これ幸いとばかりに早速購入した。

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 香港は国際的な街だけに「ここでしか買えない」と思わせるものは(食品を除き)意外に少ない。ブランド品はどこの国でも同じことだし、中国文化の品物であれば、華人のいる国、地域なら大概揃っているし、雑貨はどこか亜流を感じさせるものが多い。
 その中で貴重な「ここでしか買えない」感を作り出しているのは、latitude というデザインスタジオ。香港で生まれ育ったスイス系の ジュリー・プロギン(Julie Progin)さんと、その夫でアメリカ人のジェシー・マクリン(Jesse McLin)さんの2人。プロギンさんはフランスでテキスタイルデザインを、マクリンさんはアメリカでセラミックを学び、NYで実務の経験を積んだ後、2008年に香港にスタジオを構えた。


 latitudeの活動はセラミックとグラフィックを中心としている。今年の春オープンした香港、中環のレストラン「Night Market」ではブランディングも手がけた。

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「最初はロゴを依頼されたのだけれど、色々アイデアが湧いてきたのでクライアントに見せたら気に入ってもらえて、グラフィック全般、メニュー、サイン、食器、持ち帰り用ボックス、ポスター、それから陶器の花瓶70個を使ったインスタレーションも手がけることになったんです」とプロギンさんは言う。
 このクライアントの判断はかなり正しいように思える。台湾の家庭、屋台料理をテーマにしたレストランで、インテリアデザインはマイケル・ヤングとアレクシ・ロビンソンが手がけた。正直なところ「こんなところで(香港の料理に比べると野暮ったい)台湾料理を食べるの〜?」と思うくらいオシャレなのだが、お皿やポスターに描かれているイラスト、小学生の国語ノートのようなメニューのちょっとしたユルさがあって、全体としてオシャレ過ぎないほどほどのバランスを取っている。
「楽しさを交え、それでいてこれまで見えてなかったヒネリを加えて、台湾ならではの生活文化、食文化を提供する、というのがNight Marketのブランディングで必要とされていたことです。ロゴはシルエットだけのものと、線画のものがあり、線画のほうではとにかく混沌として猛烈に色んなものが交じっている台湾の夜市の表情を捉えたものにしています。

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クライアントに連れられて台湾に行ったのだけれど、色んな文化を取り入れているところや、夜市の活気もごちゃごちゃ感もすごくインスピレーションになりました。今の台湾を表現する、プラス楽しさがあるものをイラストのモチーフに選びました」

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 実は、私が買った食器セットもこのNight Market用に作られたものだ。私自身よく台湾には行くので、食器のイラストにどこかで馴染み感を覚えたのかもしれないが、それにしてもNight Marketのロゴやイラストは、台湾のエッセンスをがっちり捉えていると思う。
 折りたたみのテーブル、プロパンガス、昔ながらの炊飯器、人混みの中でも構わず走るスクーター、その他のあれやこれやが、棒と紐でくくられぶら下がっている。香港では道で食べ物を出す屋台がほとんど禁止されてしまったため、こうした絵のモチーフは香港人自身にとってもエキゾチックでありノスタルジックなものとなっている。
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(ポスター部分)

 イラストを見て改めて気がついたのだが、棒と紐も屋台には欠かせざるもの。台湾の屋台は基本となるカートに店主がそれぞれ工夫を凝らす。売り物をぶら下げ、金属だったりプラスチックだったりの棒でエクステンションしていく。組み立てやすく、しまいやすい。突発的に始まり、次の日はどうなっているのか分からない、この一過性は、極端な話、台湾の文化全般に言える。

 土地固有の文化を見て取り、象徴となるものを選び出し、また1つに凝縮する。latitudeのデザインには、国際的なスタンダードを持ちながら、外から見たアジアを吸収しつつ、それをキッチュでも古典愛好でもなく、今の空気に合った形に構成できる巧みさがある。
香港という土地柄、外国人という立ち位置、こうした環境のなせる技だろう。

「香港は東西の文化が交じり、自然と都市が交じり、歴史とハイテクが交じった、エネルギッシュな街です。その中で手作業を大事にしていくことで、私達にしかできないものが作れると思っています」

 最初に彼らの器を「ここでしか買えない」と書いたが、香港でしか、というよりは「彼らしか作り得ない」世界観が魅力となっているのだと感じた。まだデビューしたての若手だが、今後の活動は多いに期待できそうだ。
「一緒に仕事をするのであれば、工房に来て、私達の独自の制作方法を理解してくれる人がいいですね。食品、飲料のデザインはすごく楽しいと思います。まだまだデザインが必要な部分の多いジャンルですから、チャレンジのしがいがあります」

latitude  http://latitude22n.com
Night Market http://www.thenightmarket.com.hk/ 
kapok http://ka-pok.blogs.com/
by dezagen | 2010-12-25 13:04 | デザイナー紹介