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葉蘭をめぐる冒険とドラマThe Paradise
ライター渡部のほうです。

先日、みすず書房から出ている『葉蘭をめぐる冒険』川端康雄著 http://www.msz.co.jp/book/detail/07721.html を読みつつ、イギリスBBCのドラマ『The Paradise』 www.bbc.co.uk/programmes/p00vhpsv のDVDを見ていた。

『葉蘭をめぐる冒険』はラスキン、モリス、フォースター、ウォー、オーウェルなどを例に、その当時現地の人々が彼らの作品/意見をどのように受容していたか、を取りあげている。
後世になると、とかく美談ばかり残りがちだ。例えばラスキンは19世紀後半には時代遅れだと受け取られていた、といったような社会的受容は分かりにくい。非常に面白く読める本である。

ラスキン、及びラスキンから大きく影響を受けたモリスが啓蒙していたものは中世の美であり、自然や人間の手から生み出される美である。
こうした美的感覚が生まれたの背景には、同時代19世紀の工業化と大量生産による製品の劣悪さへの反発がある。

ドラマ『The Paradise』はラスキンやモリスが毛嫌いしたであろう、大量生産品の並ぶ百貨店が舞台となっている。
エミール・ゾラの書いた『ボヌール・デ・ダム百貨店』をベースにし、舞台をパリからイギリス北部の街に変え、百貨店文化の黎明期(1870年代を設定)を描く。

あらすじだけ書くと、身分の差を超えたラブストーリーというだけになってしまうので、(私には)特に面白いものでもない。
むしろ注目したいのは、陳列された商品、顧客の反応。

例えば、主役の1人、モレイ(百貨店The Paradiseの店主)の婚約者、キャサリンが気まぐれに「ミッドナイトインク(という色)のサテンで婚礼衣装を作る」と言う。
それを聞いた人々は、争うようにミッドナイトインクのサテン生地を買い求める。
キャサリンはその土地の領主の娘であり、街の人々からすると「お姫様」であり「真似したい人物」である。
彼女の嗜好を真似することは、当時急激に増えた中産階級の人々の夢を叶えることにもなる。
工業化で量産されているものだからこそ、同じものが手に入るのである。
(ドラマ上、この布地の生産者は倒産し、同じサテン生地のストックはほとんどないことから波乱が起きるのだが)

『葉蘭をめぐる冒険』で書かれるラスキンの美術の分野に置ける趣味嗜好と、その時代の人々の受容の話からは少しずれてしまうが、ラスキンらの中世嗜好、クラフツマンシップから生まれる美的感覚を、この時代に広まった大きな消費欲が凌駕している。
大きく消費力が増したことは史実として知られているが、ドラマとして見せられると非常に生々しく伝わって来る。

DVDにはBehide Sceneとして、制作の裏側、特に衣装、大道具、小道具の作り方、用意の仕方が詳しく説明されている。
デザイナーのインタビューが多いことも注目ポイントではある。
またBBCのスタッフブログでも www.bbc.co.uk/blogs/tv/posts/the-paradise-set いかにセットを作って行ったかが事細かに書かれていて面白い。

ブログによれば、小道具のいくつかはアメリカで仕入れてきたものだそうだ。
ビクトリア朝趣味は現代のアメリカで非常に大きな市場となっており、そのレプリカが手に入りやすい、とのこと。
レプリカの大量生産、消費というのも工業化のなせる技だろう。

ちなみにイギリスのDVDを購入しても日本のテレビでは再生できない。ただし、リージョン2なのでPCで再生可能だ。
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by dezagen | 2013-03-20 12:31 | その他